工房だより 天野 年員 Toshikazu Amano

新作の製作過程や、日常での出来事など、
天野 年員さんが京都から
近況を届けてくれています。

2022.05.21 京都の製作家・天野さんからの近況です!

私の工房は、茶道の三つの千家が徒歩で行ける場所にあります。先日、茶道の心得のある方と話す機会がありました。お茶会では茶道具の作者を必ず尋ねるんですね。「茶碗はどなたのお作でございますか」といった具合に。格式の高い茶席には相応の格の道具を用意するとか。私はバイオリニストがなぜイタリアンオールドにそこまでこだわるのか、音響性能や弾きやすさを優先するならイタリアンオールド一辺倒にならないはずなのにと、ずっと疑問に思ってきましたが、理由は「楽器はどなたのお作で…」ですね。なるほど、茶道は世の中を小空間で再現しているかのようです。バイオリンも単なる演奏の道具ではなく、奏者の品格を保つ役割を担っていたのです。 (天野年員)

2022.03.27 京都の天野さんより、近況が届いております!前回に引き続き時計のお話のようですが…

前回のコラムで紹介した無残な姿になってしまった腕時計が、メーカー修理から戻ってきました。約30年前のものですが、外装以外は故障もなかったので新品のようになりました。感激!じつは目覚まし時計も同じメ―カーの物を25年以上使っているのですが、ソーラー充電もアラームも機能していて、クレモナ在住時代も毎日私の起床をサポートしてくれました。まだまだ現役で働いてもらうつもりです。どちらも高価な品ではありませんが、なかなかやるじゃないかと感心しています。メーカーは建前上「永年のご愛用を…」と言うでしょうが、本音は「もう勘弁してくれ」かもしれませんね。(笑) (天野年員)

2022.02.15 京都の製作家・天野年員さんより近況が届きました!!

最近、加水分解という言葉を耳にすることが増えましたね。このような専門用語が身近になったのは、身の回りで加水分解が頻発するようになったからではないでしょうか。靴底がペロッと剥がれたり、樹脂部がベタベタたしたり脆くなったりするあの現象です。私たちが仕事で使う道具では、このクランプがわかりやすく次々と破損していきます。腕時計も無残に朽ちてしまいました。耐久年数はざっと10~15年といったところでしょうか。10年もてば仕方ないと思う一方で、金属部分は何の問題もないだけに捨てられないでいます。調べてみると腕時計は修理受付してくれるというので依頼してみました。修理後の姿を次回お披露目したいと思います。お楽しみに! (天野年員)

2022.01.06 京都在住の製作家・天野さんより近況が届いております!

ここ数か月で楽器製作で使う小刀を新しくしました。写真の右から3本がそれで、それ以外は過去に使ってきたものです。良い刃物は研ぎやすく切れ味が持続するのでつい手が伸びますが、そうでない物は出番が減りやがて使わなくなってしまいます。楽器作りは同種の木材で同じ作業を繰り返し行うので、同条件で刃物を比較することができ、品質の差がよくわかるのです。バイオリンも演奏の道具として性能で選べばシンプルな話なのですが、小刀のようには明解に分からないから迷いますよね。まずは先入観をもたずに試奏をしてみましょう。宮地楽器のスタッフの方達は演奏が達者ですので、ぜひ相談してみてください。 (天野年員)

2021.11.15 京都在住の製作家・天野年員さんより近況が届いております!

写真は完成直前の工程で魂柱を立てているところです。完成して弾いていただくのを想像しながら、音づくりの仕上げとして納得いくまで調整します。楽器店のようにバイオリンが沢山ある環境にいると気がつくことをひとつ。例えば5~6人が試奏されると過半数の人は同じバイオリンを長い間手にしているんですね。音は形のないものですが料理の味と似ていて、人の好みはそれほどバラバラではないようです。店員さんはそういったことを知っていますから、そっと尋ねてみると教えてくれるかもしれません。宮地楽器小金井店の11月のプレミアム商談会にぜひいらしてください。 (天野年員)

2021.09.15 京都在住の製作家・天野年員さんより近況が届いております♪

最近、運動不足の解消に週に2回ほどですが1時間を目安に歩くようにしています。良く使う散歩コースの橋を歩いていると見える松の木、ふとどこから生えてるのかなと覗いてみると、なんと!コンクリートのすき間から生えているじゃないですか。調べてみると「ど根性松」という名で良く知られているようです。確かにど根性ですが、気負わない姿とほどよいミニチュア感が好きで、通るたびに気になって見てしまいます。このコラムも250字程度の限られたスペースしかないのですが、この松のように何か気になる存在になれればなと思いました。 (天野年員)

2021.07.25 京都在住の製作家・天野年員さんより近況が届いております♪

バイオリンのニスが仕上がったのでパーツをセットしていくところです。作業前の魂柱とエフ字孔から見た魂柱の写真です。魂柱の長さや位置は音に大きく影響し、技術や経験が問われる作業です。これを立てることでバイオリンに魂が宿るといった精神的な思考で作業すると本質から遠のいてしまうので、仕事中は一種の柱だと考えて、まっすぐに狙った位置に立つよう正確な作業を心がけています。皆さんは魂柱という文字を見て、魂と柱のどちらに惹かれますか。ついつい得意な方に偏りそうですが、心も技もバランス良くが一番ですね。宮地楽器小金井店ではたくさんの手工楽器が試奏できます。ぜひお試しください。 (天野年員)

2021.06.05 京都在住の日本人製作家・天野年員さんより、近況が届きました♪

これはゾケットといいます。2枚目の写真にあるように形成されて、側板のとがった部分4個と上下各1個、合わせて6個の柱のようになります。ストラディバリは柳の木、他の多くの製作家は表板と同じスプルースを使用しています。私は両方の材で軽い物から重い物までいろいろ試しましたが、音に変化は感じませんでした。私のマエストロは、表板に使うには音響的に質が低い木を手にしながら「こういう木は(捨てずに)ゾケットに使うと良い」と教えてくれました。その意味を実感するのに、それから15年以上の経験を要したということですね。

宮地楽器小金井店では、たくさんの手工バイオリンが試奏できます。ぜひお試しください。
(天野年員)

2021.04.16 京都在住の日本人製作家 天野年員さんより近況が届きました♪

今年最初のバイオリンが完成しました。調整を終え新しい弦に張り直してからお客様にお渡しします。ところで、ドミナントのパッケージは、音に先入観を抱かせない良いデザインだと思いませんか。赤色や青色の袋に入っていると、どうしても音に色が付きますよね。バイオリンは値段や古さ、イタリア製や日本製など、エフェクターのてんこ盛りです(笑)。先入観を持たずに音を聴くのは簡単ではありませんが、素直な気持ちで楽器と接したいものです。

私のバイオリンを使ったコンサート動画や試奏音源が宮地楽器HPより発信されています。ぜひご視聴ください。 (天野年員)

2021.02.25 京都在住の日本人製作家 天野年員さんより近況が届きました!勉強になります…ぜひお読みください♪

写真は表板の厚みを削っているところです。この材は非常に軽量ですが、その割に曲げたときの手ごたえはそこそこあるという良材の典型です。ただし学校で習った厚みに仕上げるとぐにゃぐにゃになり、音は柔らかいのですがボーボーと輪郭のぼやけた音の楽器になるでしょう。このあたりの手加減こそが製作家の技量だと思います。

ちなみにバイオリンに使われる木は、100年経っても体感できるほど軽くなったりはしないと私は考えています。「オールドは木が枯れて(乾燥して)軽い」は?ですよ。正しい知識で気に入った楽器を選んでください。

私の作ったバイオリンは宮地楽器小金井店で試奏できます。
(天野年員)

  • 1
  • 2

天野 年員 作品ページへ