近況コーナー 西村 翔太郎 Shoutaro Nishimura

新作の製作過程や、日常での出来事など、
西村 翔太郎さんがクレモナから
近況を届けてくれています。

2023.01.21 西村翔太郎さんより、2023年最初の投稿です!

様々なことが起きた2022年も明け、今年こそは平穏が訪れることを心から願っております。個人的には、昨年は新たなことに沢山挑戦した一年でした。クレモナ市の至宝であるストラディバリのバイオリン・1715年製「クレモネーゼ」のコピー楽器を製作したほか、新たなチェロのモデルの設計・製作にも着手しました。この20年ほどの新作チェロは横に幅広いモデルがトレンドですが、このタイプは「音が広がりやすく、D線の音量が歪みやすい」「A線とC線を弾くとき、弓がチェロのフチやコーナーに当たってしまう」という弱点があります。そのため新たなモデルは、しっかりと芯のある音色とバランスのある音量を持ち、演奏しやすい設計にすることを目指しました。最終的に、フランチェスコ・ルジェーリと初期のストラディバリのモデルを混ぜて修正するという結論に達しました。目論見が功を奏し、著名なソリストであり、京都市交響楽団の特別ソロ首席を務める、山本裕康氏にお納めすることが出来ました。今年も「プロの即戦力になる新作楽器」をこれからも追求していく所存です。 (西村翔太郎)

2022.11.11 クレモナの西村翔太郎さんの近況です。今回のテーマは「食」!

イタリアも木々が黄色や赤く染まりだし、すっかり秋が深まってきました。芸術の秋や食欲の秋と言いますが、芸術と食はとても相性がいいようで、美食家であった芸術家は沢山います。音楽家も御多分に漏れず、美食家で知られた作曲家のロッシーニなどは、パリで食通が集まるサロンを開き、彼のお気に入りであったステーキのレシピには彼の名前が冠されています。バイオリニストでは、史上初の国際的なスターとなったパガニーニも食に強いこだわりがあったようで、現存している手紙で何度も食について話題にしています。その中でも彼の強いこだわりが最もよく表れている手紙が、アメリカ国会図書館に保管されている、1836年に友人のルイージ・ジェルミに宛てた手紙です。そこには、彼の故郷ジェノヴァの郷土料理「raieü cou tuccuジェノバ風ミートソースのラヴィオリ」のレシピを、情感たっぷりに書き残しています。ジェノヴァ風ミートソースの特徴は、ボロネーゼの様に挽肉を使うのではなく、大きな固まり肉をくずれるまで煮込んで作る事です。しかし、パガニーニが書き残したレシピにはもう一つ特徴が有りました。それは、ラヴィオリの中に詰める具材に「仔牛の脳みそ」を使う事です。意外に思われるかもしれませんが、イタリアでは脳みそスーパーでも売っている食材です。しかし、イタリア人にとっても若干抵抗がある為、それをあえて食す人はやはりかなりの食通です。本来、ジェノバの郷土料理であるこのラビオリは、現在では「パガニーニのラビオリ」とも呼ばれるようになりました。詳しいレシピの翻訳は本文の下にURLを載せております。親切なパガニーニは、脳みそではなく雄鶏を使う事も提案しています。芸術と食の秋、是非お試し下さい!
https://shotaro-violin.info/2022/11/05/paganini-ravioli/
(西村翔太郎)

2022.09.21 クレモナの製作家・西村翔太郎さんの最新投稿です!

今回も頂いた御質問にお答えするシリーズです!最近、お二方から「ストラディバリのニスのオリジナルの色はどういう色か?」という御質問を頂きました。現在のストラディバリの殆どは修復の過程で塗り直されており、オリジナルのニスが残っている箇所はとても少ないのですが、それをもとに色の推測や再現が可能か、ということです。ストラディバリのニスには、基本的には茜から作った赤いアリザリン顔料が入っています。一方でアマティ家は決して赤い顔料は使わず、鉱物系の茶色い顔料のみを使用していました。しかし実際にアマティ家の楽器を見ますと、若干赤味を帯びています。これはオイルニスの酸化による変色のためです。つまり、アマティ家が当初に意図した色ではない可能性が高いのです。一昨年、ストラディバリの1689年Toscanoという楽器の解析がクレモナバイオリン博物館で行われたのですが、この楽器は赤オレンジといった色調で見え、実際に色彩を計るコロリメーターで数値化しても赤味がしっかりと出てきました。しかし、ニスを解析したところ、顔料が一切検出されず、シュウ酸ナトリウムが多く検出されました。オイルニスの成分がかなり酸化して赤い色が付いたのではないか、と考えられます。一方で同じ時期のストラディバリの作品には、アリザリン顔料がたくさん見つかる楽器もあります。つまり、ストラディバリは楽器ごとに色味を変えていて、さらに現在では、完成された当時とは違う色味になっている、ということがわかるのです。ストラディヴァリのオリジナルの色はもう存在していませんが、ニスが経年変化することはまた、バイオリンの一つの魅力でもあると思います。 (西村翔太郎)

2022.08.11 クレモナの西村翔太郎さんより近況が届いております!

バイオリンの研究と聞くと、音響学やニスの解析などの科学分野を思い浮かべる方も多いと思いますが、歴史研究も盛んに行われており、実は毎年新しい文献が発見されるなど、歴史研究の方がダイナミックに進行している程です。先日の博物館で行われたカンファレンスでは、歴史的な3人の人物の繋がりを示す意外なエピソードが出てきました。それは、天動説を唱えたかのガリレオ・ガリレイ、オペラを初めて作曲した作曲家クラウディオ・モンテヴェルディ、そしてバイオリン製作家ニコロ・アマティです。1637年から交わされた手紙によると、ガリレオがバイオリンを弾いていた孫娘の為にバイオリンを探しており、友人であったモンテヴェルディに意見を聞いたところ「ブレーシャ製の楽器は直ぐに手に入るがクレモナ製の品質は比べ物にならない。12金貨で買える」とクレモナ製の楽器を勧めています。ガリレオはその助言に従い、ニコロ・アマティに注文を入れています。ところが、何が有ったかは定かであ有りませんが数年待たされた挙句、最終的には14金貨に値上がりしていました。偉大な天文学者も、製作家の我儘には付き合わざる得なかったようです。歴史研究はまだまだ進んでおり、謎の製作家ドン・ニコロ・アマティとアマティ家との本当の関係や、ブラザーアマティの兄弟喧嘩など、次々と明らかになってきています。そんな歴史研究は面白い反面、自分も将来どう語られるのか、少し背筋が寒くもなります。 (西村翔太郎)

2022.07.01 西村翔太郎さん最新号! 【アルゲリッチ氏と新作楽器】

こんにちは。前回に報告させて頂きました様に、今年の初めに、クレモナのバイオリン博物館が所蔵するストラディヴァリの名器「クレモネーゼ」のベンチコピーを製作し、著名なバイオリニストである豊嶋泰嗣氏が早速コンサートで使用して頂いておりますが、先日、また嬉しいニュースが飛び込んでまいりました。世界的なピアニストであるマルタ・アルゲリッチ氏とのコンサートに豊嶋氏が私の楽器で登壇された所、コンサート後にアルゲリッチ氏が豊嶋氏の元へ何の楽器を使っているのかと尋ねて来られ、新作楽器だと知り大変驚いたとの事でした。丁度その瞬間を御友人の方が写真に収めていたとの事で、ご報告と共にその写真を送って頂きました。名器を使う世界的なバイオリニストと共演し続けているマルタ・アルゲリッチ氏の、新作楽器へのイメージを覆せた様で、大変嬉しく思うと共に、長年積み重ねてきた音響研究の成果を、世界に認めて貰えたようで、達成感を感じる出来事でした。 (西村翔太郎)

2022.05.11 製作家・西村翔太郎さんより近況が届いております!!!

先日、大阪で関西弦楽器製作者協会の展示会が2年ぶりに行われました。今年のテーマはクレモナのバイオリン博物館が所有するストラディバリの名器「クレモネーゼ」になり、私がクレモネーゼの解説文を書かせて頂きました。クレモネーゼを調べるうちに、この楽器に大変魅了され、博物館の協力を得て楽器をコピーするに至り、見た目だけでなく音の特性や重さまで再現することが出来ました。 そうした所、大変光栄な事に、日本を代表するバイオリニストである豊嶋泰嗣さんのもとへ行くこととなりました。5月8日にはピアニストの山下洋輔さんとのコンサートにて、早速この楽器がコンサートデビュー致しました。ストラディヴァリを使うソリストの即戦力になる新作楽器、製作家として常に目指していたことが実現し、大変嬉しい経験となりました。 (西村翔太郎)

2022.03.17 クレモナの製作家・西村翔太郎さんより近況が届きました!

世界遺産ユネスコのアーカイブの為のインタビューを受けて来ました。クレモナのバイオリン製作の「技術の継承」が無形文化財として登録されたのは2012年の事でした。保護の対象が「技術の継承」という抽象的なものですので、今の時代の証言をアーカイブとして残し、将来の保護の為の活動や、ユネスコが支援の対象を続けていくかの判断として使われる様です。私は、若い世代として、現代の技術を使った研究プロジェクトに参加する者として、外国人として、ミラノとクレモナの両方の教育を受けた者として、様々な立場で発言を致しました。質問の中で、「日本の伊勢神宮の様な、世界遺産でありながら、式年遷宮として無形文化財の様な特殊性に、バイオリン製作の継承という抽象性に共通点を見出すか」と言う、流石ユネスコと思う質問も有りました。前述の様に保護の対象が「技術の継承」と言う抽象的なものですので、やはり何を伝統とするべきか、何を保護の目的として資金を投入すべきかを巡っては議論が尽きることが無く、それについて11の部会が発足し、より細部にわたって議論を深めていく事となりました。その中には他国のケースとの比較をテーマにした部会も有り、唯一のアジア人参加者として積極的に関わっていきたいと思っております。クレモナでは90年代からプロの製作家の内の約10%を日本人が占めてきました。伝統の保護がテーマとなる時、保守的になりすぎて排外主義が台頭する事が多々あります。メキシコの「文化の盗用」問題に対する態度などが正にそれです。クレモナの技術の継承の一端を担ってきた日本人が、ユネスコの議会に居る事で、国際性と公共性こそが現代クレモナの本来の姿勢である事を忘れない、その重しになればよいなと願っております。 (西村翔太郎)

2022.02.05 クレモナの西村翔太郎さんより近況が届いております!

【E線のループエンドとボールエンド】 こんにちは。こちらで研究プロジェクトに携わっている関係で様々なご質問を頂きます。「バイオリンのE線にはループエンドとボールエンドが有りますが、音が変わるのでしょうか」といったご質問を頂きました。ループエンドとボールエンドは取り付ける金具「アジャスタ」が変わってきます。これにより二つの事が変わります。①駒からアジャスタまでの弦の長さ ②アジャスタによるテールピース全体の重さ(質量)です。一つ目の「駒から金具までの弦の距離」と音の関係については、残念ながら近年の研究論文でも目にした事が無く、そもそも余りにも考慮する事柄が多すぎる為、研究デザインの段階から困難だと思われます。この長さの違いについては、E線で知られる弦メーカー「WARCHAL」では、ループエンドにすると距離が長くなる事により、音が柔らかくなると説明されています。一方で「金具によるテールピース全体の重さ」の変化と音との関係については、幾つかの研究が行われております。チェロでは、テールピースの重さを変える事によりウルフ音を抑える効果が知られている為、研究のテーマになりやすいのだと思います。バイオリンのE線用の金具には様々なタイプが有りますが、一番広く使われている合金タイプですと、ボールエンド用がループエンド用に比べて、約2g程重くなっています。2015年に行われた研究では、テールピースに2.5gの錘を取り付ける事で、楽器のボディの周波数特性がどのように変わったのかを確かめた実験が有ります(画像参照) この実験では主に100hz以下のテールピースの周波数帯で大きな違いがみられますが、音に直接影響を及ぼす楽器のボディの周波数帯にも若干の違いが見て取れます。これがどれ程変化を及ぼすのか、それは楽器や演奏者によるとしか言えない程度です。2019年に行われた、演奏者はどの程度の変化を感じ取れるのかという実験では、プロのバイオリニストは楽器のボディの周波数特性の2hzの違いにも敏感に反応するという結果も出ていますので、そういう方だと気づく程度の変化です。また、楽器によっては音に影響しない場合も多々ありますし、他のパーツの調整の方がより違いが出るとお考え下さい。音が良くなるアジャスタと謳う商品も見受けられますが、全ては楽器と演奏者の好みで決まります。理想の音を探す旅には終わりが有りませんね。 (西村翔太郎)

2021.12.27 西村翔太郎さんより、クレモナでの近況が届きました!

【弦の巻き方で音が変わるのか】 クレモナで音響研究に携わっている関係で、様々なご質問を受けるのですが、最近「弦の巻き方を変えると音が変わるのですか?」というご質問を多く受けます。どうやら、日本では「ペグで弦の巻き方を短くするとテンションが変わり音が変わる」といった言説が有るようです。結論から言いますと、変わりません!バイオリンの構造上、弦は駒から枕木までの両端固定の振動です。その場合、弦の周波数とテンションの関係は次の式で表されます。<周波数をf、弦長をL、テンションをT、線密度をpとする時、f=n/2L√T/p>この式から、同じチューニングで弦長も決まっていると、テンションは線密度「弦の種類」以外では変わらない、という事です。ですので、弦を固定している枕木の「外」であるペグでの弦の巻き方や長さを変えても、影響は無いのです。また現代の振動シュミレーションでは、ネック部分の微細な振動の変化は音にほとんど影響を及ぼしていない事が観測されます。一方で、弦の種類を変えると、弦はそれぞれに線密度が違いますので、テンションが大きく変わります。もし、弦のテンションや音を変えたいと思われた方は、弦の種類を変えてみる事をお勧めいたします。 (西村翔太郎)

2021.10.15 製作家・西村翔太郎さんがクレモナより近況を送ってくださいました!

こんにちは。先月、菊田さんの御紹介で日本音響学会のオンライン研究発表会にて、講演をさせて頂きました。弦楽器の誕生からバイオリンの誕生へ、そして現代の音響研究まで、楽器製作家がどのように楽器を進化させ、音楽にどの様な影響をもたらしたのかについて、1500年の歴史を俯瞰する内容でお話をさせて頂きました。与えられた時間を大幅にオーバーした上に、質問セッションでも沢山のご質問を頂き、晩くまで講演が続いたのですが、それでも沢山の方々が最後まで聴いて頂き、日本の音響研究者の方々のバイオリンへの高い関心を感じることが出来ました。バイオリンの音響研究はアメリカを筆頭にヨーロッパでも益々盛んになってきております。イタリアでも、私が立ち上げから携わっているプロジェクトでは一定の進展が有り、イタリアの製作も新たな境地へと入るのではないかと言える段階まで来ております。これを機に、音響学がとても進んでいる日本からも、何か発信出来るのではないかと模索していきたいと思っています。 (西村翔太郎)

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